サレヴェイ
好きなもの
「ねぇ、ヴェイグ。キミの好きなモノって何かな?」
ニッコリとやわらかな笑みを浮かべてサレは公務が終わるなり、訓練場で剣の素振りをしているヴェイグに訊ねた。
「何を突然」
「ちょっと気になっただけだよ。あ、クレアちゃんとか言ったら僕かなり凹むなぁ」
「馬鹿を言え」
おどけた感じに肩を竦めるサレにヴェイグはフッ、と笑みを零して振るう剣の腕を休めた。
他の兵の邪魔にならぬよう訓練場の隅のベンチに腰掛けて、先ほどの話の続きを始める。
「ヴェイグが好きな食べ物や好みのアクセサリーとか、何かあるだろう?」
「装飾品を男がつけて喜ぶのはお前くらいだろ」
「おや、それは褒めてくれているのかな?」
クスクスと笑うサレにヴェイグも相応に笑みを浮かべて肩を竦めた。
「さぁな。・・・・好きかどうかは解らないが、ポプラおばさんのピーチパイが無性に食べたくなる」
「ポプラおばさん?」
聞き慣れない単語にサレは首を傾げて訊ね返すと、ヴェイグは「あぁ・・・」と呆れたような表情を浮かべた。
「お前がスールズに来たときに、クレアと引き換えにフォルスで飛ばしただろう」
「ああ、あのガジュマの・・・・・・僕はいつもあんなことをしているからね、あまり記憶になかったよ」
しかし、ヴェイグとの出会いにはかなり印象に残っていたらしくすぐに思い出せてしまい、すぐに思いついたのはサレ自身驚いたようだ。
「それにしても、ピーチパイねぇ。結構、僕と似たようなモノかもね。僕はラズベリーが好きだから」
「そうなのか?お前には似合うかもしれないな」
「そうだね、ヴェイグに桃はちょっと不似合いかも」
互い顔を見合わせながらクスクスと笑い合った。
「ポプラおばさん、ねぇ・・・・・・・・」
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ポプラ宅邸。
いつものどかなポプラの家にコンコン、と礼儀正しいノックが珍しく響いた。
村の者なら遠慮せずに、そのまま中に入ってくるものだが。
ポプラは緊張してポンポンと衣服の埃を払い、鏡を軽く覗いた後に扉を開けた。
「ハイハイ、誰ですかー?」
元気な声で扉が開き、強引に何かが入ってくると何かに勝手に扉を閉められた。
「何をするんだいっ!」
「こんにちは、お久し振りだねぇ」
「お前は!」
どうして忘れることができようか、小さい頃から見ていたクレアをさらった張本人で、自分を宙に浮かばせた人物を。
サレはクスリと笑って両手を上げた。
「そう、攻撃的にならなくてもいいだろう?僕はおばさんに頼みに来たんだから」
「フン、お前に何を頼まれたって私ゃ、なんっにもやんないよ!」
「へぇ・・・・・・それがヴェイグの頼みであってもかい?」
ツン、としていたポプラの顔が一瞬にして変わった。
「ヴェイグちゃん!? アンタ、ヴェイグちゃんがどこにいるか知っているのかいっ!」
ポプラは知っていた、ヴェイグの友達(マオやティトレイ)からヴェイグが行方不明になったと。
それを知っていただけに、サレの言葉には信用したいものがあったかもしれない。
「ヴェイグ・・・・ちゃん?? ククッ、まぁ知らないワケじゃないね。僕は彼の代わりに来たんだ、彼はおばさんのピーチパイが欲しいみたいで」
「わかったよ。ヴェイグちゃんが私のピーチパイが欲しいと言うのなら、何枚でも焼いてやるよ!」
「本当?嬉しいなぁ、ヴェイグに代わって僕からお礼を言うよ」
「たーだーし、アンタもちゃんと手伝うんだよっ!!」
「・・・・・・・・・・ぇ!?」
「ホラ、何やってるの!おばさんやるとなったら――――――・・・・・・!!!!」
こんな屈辱的な姿、誰にも見られたくはないと思ってもヴェイグのためだと思えば渋々と手伝うサレだった。
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好きなモノは何か、と訊ねたサレは翌日姿を消した。
特に公務も、遠征もない予定だったのを知っていたヴェイグはふと不安になった。
陽がドップリと沈んで時計の針ももう深夜を指そうとしている。
「何をしているんだ・・・・・・・・・」
四六時中、相手の行動を読めていた時と違い何もわからないままで放られると相手が今、何処で何をしているのかが、気にかかって仕方がない。
そして、それはイライラを招いていき、ヴェイグは高級そうなテーブルの端を指でトントントンと軽く叩き鳴らした。
「・・・・・・・・・・・俺は、アイツに会って何がしたいんだ・・・・・・・」
そんなことに気付けば、ヴェイグは頭を抱えた。
少しでも離れれば依存症に近い症状が表れる。それほどまでにサレを必要にしているとか・・・・笑えてくる。
「くだらない・・・・・、もう寝る――――――」
「おや、せっかく今まで起きていてくれたのにかい?」
待つのを諦めてベッドに向かおうとすると同時にテラスへの扉が開いて、サレがそこに立っていた。
「サレ!」
「僕を心配して待っていてくれたんだね?嬉しいよ」
「ふざけるな、俺は―――――!!」
しかし、嘘ではない。
サレが帰ってきて、顔を見たときホッと安心したのがあった。
何かを言い返そうと思って開いた口を噛み締めて、ヴェイグは俯いた。
耳にはクスクスというサレの笑い声、そして鼻を掠める甘い懐かしい香り。
「!」
「お土産だよ、ヴェイグ。キミへのプレゼントだ」
麻の袋に包まれた箱をテーブルに置いて、開けるとそこには少し形が崩れたピーチパイがあった。
「さすがに冷めちゃっているけど、冷めても美味しいらしいから一緒に食べようか」
「サレ・・・・・・・」
「このまま朝日を見るまで、語りあうのも悪くはないだろ?」
「・・・・・・・・そうだな。サレ、・・・・・・ありがとう・・・・・・」
恥ずかしそうに礼を言う、そんなヴェイグを見れればサレは大成功、と大きく笑った。
――あとがき――
「おまけ」も含めて、執筆時間1時間もして な い・・・。(笑)
つか、「おまけ」言っといて何にもない・・しかも手抜きとは・・ありえねぇ。。
えーっと、補足・・・・・。
汐羅はピーチパイ食ったことないです。
アップルパイも実のところ手作りは、あまり食したことがなく。
パイといえば、マクドナルドのアツアツな何か(シロップ?)がドロリと垂れてくるのしか思い浮かばず・・・。
手作りパイ・・・デズニーアニメの「白雪姫」のアレを思い浮かべながら書いてみました。
しかし、ちょうど書き終わった夜の教育番組で「手作りアップルパイ」なるものを作ってるのを見てました。
あれ、シナモンとグラニュー糖と粉!?はちみつ使わないの!?(びっくり)
訂正するのも面倒なので、違うまんま・・・・「おまけ」の“シロップ”はマックのパイのアレを想像してやってください(切実)
2005.03.29.
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