異世界の人
本日、数度目の溜め息。
レックスはヤッファの隣ですらも溜め息を吐き続けている。
そろそろ溜め息ばかりの恋人にイライラを始めたヤッファは荒い口調で言った。
「オイ、さっきからずっと、はあはあはあはあ….。お前はいつハァハァ虫になったんだよ」
「は?――――――、何でもないよ。何でも・・・・・・」
笑顔で曖昧に答えて、レックスは一度向けた視線をヤッファから背ける。
そして、また1つ溜め息を吐く。
「おーい、先生〜」
「せんせいさーん!」
レックスとヤッファがくつろいでいた「なまけものの庵」がスバルとマルルゥの登場でぐっと騒がしくなる。
やんちゃなスバルにお節介な花の妖精マルルゥ。
2人ともレックスの青空学校の生徒だ。
「どうしたんだ?2人揃って」
「あのな、またジャッキーニの畑にモグラが出たんだよ」
「こーいうのを頼めるのは先生さんしかいないってヒゲヒゲさんも言ってましたぁ」
せっかく休めた時間をモグラ叩きで潰されたと思うとたまらないが、ここは先生であるレックスだ。
ここで断っては、先生と呼ばれる資格にないだろう。
ちょうど畑は近い場所にあるし――――。
「行ってくるよ」
「ああ、行ってこいよ」
ヤッファはふいふいとフサフサの尻尾を左右に振ってレックスを見送った。
このアッサリ感にレックスは悩みを一層膨らませていった。
「おぉう、さっすが先生じゃのぅ」
「お見事です〜」
見事、畑を荒らすモグラを退治してやれば、やんややんやと周りから拍手と歓声にはやされる。
「おつかれさん」
「オウキーニさん」
お疲れさまとジャッキーニ家の食事当番であるオウキーニがすぐに差し入れとして、簡単なお菓子とお茶を持ってきてくれた。
レックスの悩みの種を作ったのはオウキーニであり、彼の一言が今も引っ掛かっている。
「オウキーニさん、あのこないだの―――――」
「ああ、すんまへんなぁ。わいが変なこと言うたみたいで、あんさんが悩んどるって聞いたで」
オウキーニはヤッファと同じ獣界メイトルパの出身である女の子に告白された。
彼は、リィンバウムの人間がメイトルパの召喚獣と付き合うのは難しいではないのかと考えた。
ましてや、海賊の一味であるオウキーニにはいつか島を出るつもりでいるため、そこのところも悩みの種だという。
それを聞かされてから、レックスは同じ境遇であることに悩んでしまった。
レックスにはアリーゼを軍学校に行かせる役目がある、いつかは島を出て行かなければならない。
世界の違う2人、ましてや男同士であることに不安を感じてしまう。
「俺もいろいろなりに考えたんです。島に残ったり、アリーゼをちゃんと送って行かなくちゃって。でも・・・・・・、俺はどちらかなんて選べない」
どっちも大切な人だから。
「あんさん、一人で悩むのはどうかと思うわ」
「!!」
「ヤッファはんはあの通り護人ですわ。あの人が島を離れるとは考えられへんな?でも、アリーゼちゃんはどうや?確かに軍学校に行ったらそれなりの教養も得られるわ。せやけど、ここに居った方がもっと自分らしさが身につくんやないやろか」
オウキーニの言葉にレックスはすぅ、と深く息を吸い込み飲み込んだ。
「ありがとうございます、オウキーニさん。ココに残れ、なんて俺からは言えないけど、アリーゼの気持ち、それを聞いてみようと思います」
お茶を全部飲み干すと、レックスは頭を下げて畑を後にした。
そして、船へと向かう途中に思い立ってなまけものの庵へと足を向けた。
「ヤッファさん」
「ん?」
「俺、・・・・・・もし島を離れるとしても。俺は貴方の側にずっといるつもりですから」
キリッ、とした顔で、レックスは先ほどの溜め息面とは打って変わって、違う表情を見せてそう断言した。
ったく、とヤッファは頭をガシガシと掻いてから大きな手でレックスを手招きした。
そしてそれに近寄ってきたレックスの体をがっしりと掴まえて自分の懐へと引き寄せた。
「馬鹿が。お前はそんなことで悩んでたのかよ、馬鹿以外の何者でもねえな」
大きなヤッファの体がすぐ近くに感じられる。温かいヤッファのフサフサの毛に抱かれて今までの不安が何のことでもないように感じられてしまう。
「俺は、貴方のことが好きですから。一生懸命なんです」
「フン、一生懸命になりすぎるのもいい加減にしろよ」
大きな両手に頬を覆われながら、レックスは耳元にヤッファの言葉を聞いた。
とても嬉しい言葉だった。
こんな素敵な言葉を互いが共通できる。
いろいろと厳しい問題もあるかもしれない、けれど自分たちならば対処していけるだろう。
2人は好き合っているのだから・・・・・・。
何だかもう・・・・・書いてから時間が経ちすぎて、恥ずかしい。。。。
2005.01.22.
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