サモンナイト3(ヤッファ×レックス)
爽やかに暖かい日差しの下、レックスはいつものように青空学校で子供たちに外の世界であるリィンバウムのことを教えている。
文字であるとか簡単な計算、世界の地形に召喚術。それぞれの故郷である異世界がどんな所と伝えられているかなど。
スバルやマルルゥなどはとても苦戦していて、眉を何度も顰めては声を上げるが委員長であるアリーゼがなんとか宥めながらも頑張って授業に励んでいる。
(そろそろ、時間かな?)
今話しているのをキリの良い所で終わらせると小さな鐘から伸びる紐を引っ張ってリンゴンと鳴らす。
「はい、今日の授業はここまで。また明日、続きを勉強しような?」
「ハイ、先生!」
元気良く返事をしたのはパナシェとアリーゼ。スバルたちは早速遊びに行こうと駆け出す寸前だ。
それに続くように飛び回るマルルゥにレックスは慌てて声をかける。
「マルルゥ、今日ヤッファは―――?」
「シマシマさんですかぁ?うーん・・・・・・また、いつもの所でお昼寝ですよぅ」
「そっか。ごめんね、引き止めちゃって」
「いいんですよぉ、先生さんにはいつもお世話になってますしー。先生さん、シマシマさんのことが大好きなんですねぇ」
マルルゥがニコニコ笑って言うと、レックスも自然と顔が綻んで照れて頷く。
「コラー、マルルゥ!早くしないと置いてくぞ!」
「あ、ヒドイですー!待ってくださぁい!!」
先にズカズカと進んで行くスバルに呼ばれるとマルルゥは元気良く飛んで後を追いかけていった。
「元気だなぁ。ヤッファも彼らを見習えばいいのに」
でも、それはそれで想像するのがとても難しかった。
いつもやる気のない彼が楽しそうに蓮の葉を飛び越えていたらと考えると怖いものがある。
「そうねぇ、あの人(?)にそれは似合わないかも知れないわねェ」
「わ、スカーレル!?」
教科書である数冊の本をまとめて独り言をしていたレックスの背後にクスリと笑いながら海賊のスカーレルがいた。
「おはよ、センセ。朝も早いのに大変ね」
「まぁ、いつものことだから。スカーレルもやってみたら?早起きは三文の得って言うし」
「あら、せっかく早起きしても三文しかならないの?――でもセンセ、それを言うんなら、アナタの恋人サマに言ってあげた方がいいんじゃないの?」
フフリと笑ってレックスをからかいながらスカーレルは手に持っていた果実を差し出した。
その果実こそレックスの大好きな果物であり、差し出されたのを素直に受け取って口へと運ぶ。
「例えば、センセ。こういうのはどうかしら――――――?」
何の疑いも無く食べ進めるレックスにニヤリと不敵な笑みを浮かべてはこっそりと耳打ちした。
「シマシマさーん!!大変ですよぉ、起きてくださーい!!」
いい睡眠を得られているのに、耳障りな高い声。
それが頭上でブンブンと羽音を立てながら飛び回っているものだから、迷惑極まりない。
「うるせぇぞ、マルルゥ。たまには静かに寝かせろって」
なまけものの庵で横になっていたヤッファはワザと大きく声を上げて欠伸をしては、飛び回るマルルゥをシッシッと追い払う。
「シマシマさんはいつも寝ているじゃないですかぁ!」
プーと大きく頬を膨らませては、これでもかとマルルゥはヤッファの耳を引っ張った。
「いってぇなぁ!!ったくよぉ、人が寝てんのに静かに出来ねえのかよ?・・・んで、どうしたんだ?」
ようやく起きたヤッファにわぁ、と大喜びをするのも束の間にマルルゥは大きな声を上げて言った。
「先生さんが眠ったまま起きないんですよぉ!!」
「ああ!?」
寝ぼけていたヤッファの目が大きく見開かれた。
機界集落のラトリクスにある治療所の無機質な鉄の床にシーツを被せただけの簡単なベッドに目を閉じ微動だにしないレックスが横になっている。
マルルゥの話では「先生さんがごっくんしたら、キュ〜・・・バタッ!ってなっちゃったんですよぉ!」と容量を得ないので、当事者であるスカーレルに話を聞いた。
「あら、私はセンセの好きなナウバの実があったから取って渡しただけよ?アンタだって知ってるんでしょ、センセがナウバの実が大好きなことは」などと言われてヤッファは言いくるめられた。
確かに、レックスはその果物が好きだったしヤッファもあげた時に見せる笑顔がとっても好きだったので何度もレックスにプレゼントをしていた。
クノンの検査した結果が出ると、さらにレックスの様態が謎に包まれた。
「外傷、体の内部には異常は見られません。レックスさんが食べられた果実の痕跡を見ても何ら異常はありません。何故、眠りについているのか・・・・・・わかりません」
「わかんねぇって、それでも医者なのかよ!?」
ナースの服を着ているクノンに食って掛かっても、「私は人形なので」と冷たく離されてしまった。
ヤッファ以上に心配しているのは、生徒であるアリーゼか。アリーゼはシュン、と落ち込んでレックスの顔を覗き込んでいた。
「ヤッファさん。先生に・・・・・・キ、キスを・・・してください」
一瞬の沈黙のあと、ナッファが大きく驚き動揺の色を見せる。
「な、何言ってんだよ!?何で、コイツが寝てるのに俺がキスをしなくちゃなんねえんだ!?」
「私、小さい頃にお話で読んだ事があります。深い眠りについたら、心から愛する人の口付けで目が覚めるって。だからヤッファさん、お願いしますです!」
小さいがかなり意志の強い眼差しを向けられると、さすがのヤッファでもタジタジになってしまう。
「なるほどー!それは効果テキメンかもしれないですよ、シマシマさん!」
「いいわねェ、アリーゼちゃん。ワタシもお話で読んだ事があるわー」
「非科学的な行為ですが、それを否定する根拠はありません」
アリーゼの提案に他の者が次々と賛成の声を上げていく中、ヤッファはこれはやらなきゃいけないと覚悟せざるにを得なかった。
「ヤッファ(シマシマ)さん!!」
声を合わせて名前を呼ばれるのを後押しに、唇を噛みながら横たわるレックスの顔に己の顔を近づけた。
だが、唇と唇が重なる数センチ手前でヤッファはクンと鼻を利かせた。
「レックス。ウソ、だろ?」
やってらんねぇ、とヤッファが顔を上げると眠っていたはずのレックスの目が開きエヘへと笑みを浮かべた。
「さすが、やっぱ見破られちゃいましたか」
「先生(さん)!」
ウソを見破れなかったマルルゥとアリーゼは驚きのあまりに目を丸くして、レックスの顔を覗く。
「ごめんな、アリーゼ、マルルゥ。ちょっとしたイタズラだった。そこのスカーレルに提案されてね」
「もう!あれほど心配をかけないでって言ったのに!」
「でも、何事もなくって良かったですぅ。アリーゼちゃん、やんちゃさんたちにも報告に行くですよ!」
「キュピピー!」
マルルゥの提案にアリーゼが答える代わりにキユピーが答えて、マルルゥとアリーゼ達はその場を後にし、クノンも次の仕事があるらしく部屋に残ったのはレックスとヤッファだけになった。
「ごめんなさい、やっぱびっくり――――」
「馬鹿野郎!!!」
くわっと大きく見開いてヤッファは怒鳴りつけ右手を大きく振り上げ、レックスは反射的にビクッと身を竦めた。
「馬鹿野郎、本当に何かあったんじゃないかって心配したじゃねえか」
振り上げた手を優しくレックスの頭に置いた。
「本当に・・・・・・?」
「ああ。じゃなかったら、こんなところに何かこねえよ」
「ヤッファさん。俺は、いつも貴方が眠っている事が心配だったんですよ。だから、逆に心配掛けてみたら・・・って」
「下んねぇな、俺はいつでもお前を気遣ってるつもりだ。剣のことも、お前の体のことも」
「俺もですよ。今度、一緒に遊びましょう・・・・・・とは言いませんけど」
一緒に寝ませんか?
後日、なまけものの庵。
「あれれー?先生さんもお寝坊さんになっちゃいましたかぁ?」
「せんせー、学校はー?」
「シッ、スバル静かにしようよ。ヤッファさんも先生も起きちゃうよ」
「そうですね、お2人ともとっても幸せそうですし・・・・・・今日は私がお話をしましょうね」
「キュピ、キュ、キューピ!」
「うん、キユピーも」
書いてからあまりにも時間が立っているので、あとがきはなし。
2005.01.22.
■ BACK ■