夢の後先
アスファルトの道がぐにゃりとデコボコに曲がりくねった。
夜の道を照らす両端に立てられた街灯が視界の真ん中上部で1つになる。
おかしい。
(いや、おかしいのは僕の方か・・・・・)
自嘲気味に笑って、白い髪をした男はバタリと倒れた。
「は? おい、セイファル!」
奇妙な形をした動物が瞬時に人間と化する。動物の姿よりも人間の方が動きやすいということもある。
例えば、この倒れた男を抱えてみるとか。
「おい、何道の真ん中でぶっ倒れてンだよっ。今日は待ち合わせがあったんじゃないのか!?」
動物から人間に化したモノは10代後半の男子の姿だ。運動力のある姿がたまたまこのときだったらしい。
倒れた男は白い短髪で緑の瞳、尖った耳。顔はさすがインキュバスと言うだけはあって男女どちらから見ても綺麗と言える。
彼の整った顔のある頭を少年は膝に乗せて、覗き込むようにして様子を見た。
「―――――――――――、」
虚ろだが何かを訴えたそうな瞳が一瞬向けられたと思ったら、すぐに下げられた。
「ンだよ! アンタ、いつも澄ました顔してたくせにイキナリ倒れてんじゃねぇよ」
「・・・・・・キミには関係ないよ」
口からはいつものように小馬鹿にしたような口調ではなく、弱々しく一つひとつゆっくりと紡ぎ出されていく不思議なものだった。
「関係無いって・・・・・・って、ちょっと待った。何だよ、コレ――――」
もし土の上で見たらきっと同化していて気付けなかっただろう。
けど、今はアスファルトの上。白い肌のこの男のものとは思えない枯れ枝のような細くしわしわな腕。
色は土色。鈍い色。それが人の腕と思うならば、気持ち悪い色。
「何、って・・・・・・僕の、腕じゃないか・・・」
至極当然かのように冷めた口調で言う相方に背筋がゾクリと恐怖を覚えた。
「でもコレってミイラじゃん」
「ミイラだよ」
ゼイゼイと肩で息をしていてもフゥ、と面倒臭そうな溜め息ははっきりと分かる。
「僕は長く生きているからね。・・・・・・ときどきこうなることもあるさ」
「セイファル、お前・・・・・・アレか?最近シてないのか・・・・・・?」
「・・・・・・何を?」
少年がそう神妙な顔をしていうものだから、彼は元からの性格を表し挑発するように聞いてみた。
「だから、その・・・・・・アレ」
「・・・アレ、って・・何?」
「セッ――――――、・・・・・・(//□//;」
消えてしまいそうな言葉だったが、近くにいた彼には全て聞こえていて。彼はとてもおかしそうに笑った、力無く。
「僕も、・・・・・・・ずいぶん丸くなった、ものだよ」
あの頃に比べれば。
とても酷い頃、いつも夢ばかり見てしまう。
夢魔と言われ忌嫌われている自分。
インキュバスとして、淫魔としての自分。
「どうして、僕はキミと組む気になったか解る?」
とても明るい街灯に目を細くして、質問を相方に投げかけた。
「さァな」
「キミは悪い夢、嫌な夢を食べてくれるから」
だから、僕の嫌な過去の夢を――――――――。
「・・・・・・やめろよ、ばぁーか。お前の口からンなこと出るとは思わんかった」
「でしょ?・・・・・・だって、僕はイイ夢を見せる夢魔、だもの」
卑屈めいた口調で笑い声を上げた。
そして、枯れ枝のような腕を持ち上げて。
無くなっていく自分の力を実感した。
「僕は不老不死じゃない。生きている。老けていく―――――――」
無理が限界を知らせているのかもしれない。
それが妙に死をリアルに感じさせられて。
セイファルはそっと意識を手放した。
酷く枯れていった塊。
今まで整っていたと思ったものが急に崩れていくその姿を、少年はじっと見ていた。
恐ろしい―――とさえ、感じてしまう。
「ばぁーか」
こんなボロボロになるまで、何やってたんだよ。
強く持ったら折れて粉々になりそうに、痩せ細ったミイラな体。
少年は抱きかかえて、闇へ消えていく。
向かうは夢の世界か。
――あとがき――
見てくれているか解りませんが、とりあえず言い訳です(ぇ)
僕にはこんなことでしか緊急事態を知らせられない。
寂しいものです。
早くチャット復帰したい(切実)
2005.01.10.
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