Hey-Bee!!

 

 


宴の時(アザゼル)

 

 

 

 両手首、両足首に付けた鈴が動きと共に透明感のある音を奏でる。

 巫女は踊る。

 ひらひらとした衣装で宙を切り、しなやかな白い腕は風を撫でる。

 巫女は歌う。

 言葉にはならなくとも、響き渡る歌声はすべての時間を止める。

 巫女は祈る。

 すべての平和が本物でありますように。

 額から頬を伝い、顎に滴を作った汗を巫女は指で拾いペロリと舐めた。

 

 空は夕刻のように赤く。

 世界の終わりを告げる。



 「何を見ている?」

 アザゼルは幻想的な踊りを舞う巫女が映る泉の水面から視線を上げた。

 「これは、ルシファー様。 お散歩ですか?」

 ルシファーはとても美しい顔立ちの青年だ。

 それこそ、天使と見間違うような美貌と金色のさらりとした長髪に碧眼。

 背に背負った翼も真っ白だ。

 だが、ルシファーの衣装はすべて黒で統一されている。

 「人間共の世界などを見て何が楽しい」

 「私の仕事ですから」

 人間の女が舞う姿を見、美しい顔が憎しみに崩れたルシファーの表情をアザゼルはクスリと笑って答える。

 「まぁ、私的な感情が入っているのは否定できませんが」

 アザゼルは今一度、泉の方へと視線を落とす。ルシファーも同じく続けた。

 泉にはやはり巫女らしき女性が舞っている。

 「夕闇に照らされた巫女。 なんて美しいんでしょう」

 泉の中で踊っている様子は、まるでアザゼルの手のひらで踊らされているかのようだ。

 「貴様の趣味は解らぬ」

 「ご理解いただけませんか? 彼女の腹には私の子がいるのですよ」

 ニヤリ、と笑いながらアザゼルは黒い十二枚の翼を器用に広げて動かした。

 ルシファーと比べて、アザゼルの本当の姿は恐ろしい魔物だ。

 人型ではルシファーのように美しく作ってみたが、恐ろしい魔物が外見を装っても顔に醜さが宿っている。

 「私を天使と思う彼女を騙すのはとても楽しかったですよ」

 純真無垢な巫女を快楽の世界へと落とすのはとても愉快だった。

 そして彼女は身篭って、己が知らなかった快楽の恐ろしさに気付き罪滅ぼしとして神に祈りをささげている。

 そんな様を面白く、アザゼルは見ていた。

 「・・・・・・愛した女を殺す貴様はやはり解らぬ」

 「いいではないですか、ルシファー様。 面白いものが見れるのですから」

 やはり、見ていて気持ちのいい笑いではない笑い声を上げてアザゼルは、指をパチンと鳴らした。

 

 すると巫女の身体が裂けた。

 あれほど綺麗な音色を奏でていた鈴はけたたましく鳴り響いた。

 ひらひらとした衣装は赤くビリビリに破け、しなやかな四肢はバラバラに分裂し地面にひとつひとつ落ちていく。

 目を見開き悲鳴を上げている巫女の額から赤い筋が頬を伝う。

 腹から飛び出た魔物を巫女の顎の先から落ちる赤い滴で濡らしていく。

 遥かに人間の赤ん坊にしては、巨大でしかも異臭を放っている。

 恐ろしい魔物が母親の肢体を切り裂いて出てきたのだ。

 

 「私の子供たちは、人肉を欲します。 またひとつ人間の町が壊れましたね」

 巫女から出た子供をアザゼルは愛しそうに泉に映るそれを可愛がるように水面を撫でた。

 「ルシファー様。私はサタン様のお役に立てているのでしょうか?」

 「・・・・・・さぁ、な」

 あまりのグロテスクなその映像に美しいルシファーの顔がさらに歪む。

 アザゼルは普段見せないルシファーのその表情を見るのもひとつの快感だった。

 笑うアザゼルに腹が立ったのか、ルシファーは踵を返してアザゼルの元を足早に去った。

 「人間嫌いとお聞きしたから、こうしたんですが。逆効果だったでしょうか」

 ルシファー様―――いえ、サタン様。

 

 アザゼルはもうひとつ笑うと、再び泉へと視線を落とした。

 次に壊す人間の女を品定めするように。

 

 

 ***************

 

 「ずいぶん、お遊びしているようですね。アザゼル」

 とある日、アザゼルが人間界に降りていると不意に声をかけられた。

 相手は男だ。

 知らない相手ではない。

 彼に話しかけられ、ドクンと心臓が高鳴った。

 「・・・・・・ラ、・・・ラファエル、様・・・・・・・」

 銀の長髪を首の位置でひとつにまとめ、僧服のようなものを身に纏った四大天使が1人、ラファエルがそこにいた。

 「どうして、・・・・このようなところに・・・・・っ」

 何故、四大天使の1人が人間界にいるのか。

 そして、どうしてアザゼルに話かけてきたのか。

 さまざまな思考をアザゼルは巡らせた。

 「貴方も身に覚えがあるようですね。では、お話しやすい」

 ニコリ、と屈託なく笑うラファエルは油断していたアザゼルの腕を力強く掴み拘束する。

 「堕天した者をとやかく言うのは好きではなかったのですが、神が貴方の行為には目に余るものがあるとお怒りになられたのでよ」

 言葉はとても丁寧だ。

 だが、アザゼルを睨み付けるラファエルの顔、掴んでいる強さ。

 そのギャップがとても恐ろしく思えた。

 「私は―――――」

 「神は私に貴方の処分を任せてくださいました」

 「・・・・・・・」

 「人間界は貴方のおかげで大分、乱れました。 その罪をすべて貴方に返しましょう」

 ラファエルは表情ひとつ崩さず、アザゼルをアザゼルの子供たちが壊して破滅させた街だった荒野に封印した。

 荒野に出来た明かりがひとつも射さない暗闇の穴の中で永久に閉じ込められることとなった。

 

 

 荒野では、泉がない。

 暗闇では、誰も見ることが出来ない。

 暗闇が恐ろしい!

 自分が解らなくなる暗闇の穴の中で、アザゼルはルシファーに助けを請うたが、

 人間嫌いのルシファーが人間界を見ることが出来る泉に立つことはなく、

 アザゼルは永遠に暗い穴の中で閉じ込められてしまった。

 

 

 

 1発書き。

 執筆時間:約30分程度。

 参考:ttp://www.angel-sphere.com/

 

 

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