Hey-Bee!!

ヴェアニ3

 

 

 

 時制はティトレイが仲間になって〜サニィタウンに行く間まで。

 

 

 

 

 夕方、宿ではいつものようにアニーは日記を書いていると、トントンと部屋のドアを叩く音が聞こえた。

 (ヴェイグさん?)

 アニーはいつしか、彼のノックの音を聞き分けることが出来たようで、すぐにドアの向こうの相手を想像できた。

 いつもなら、こちらの返事を受けて開けるのを待っている彼なのに、今回は少しばかり違った。

 彼の方からドアを開けてきた。

 「ヴェイグさん!?」

 思わず、ドキンと胸を高鳴らせながらドアの隙間をアニーは覗き込んだ。

 

 「すまない、アニー。ここにマオはいるか?」

 「マ・・・・オ? いえ、マオはティトレイさんとあの人と一緒に買出しに出かけてますけど。

っていうか、ヴェイグさん!髪がビショビショですよっ!」

 白銀の長い髪からポタポタと雫が落ちて、床を濡らしているのを見つけるとアニーは慌てたように、自室にあったバスタオルを持ちヴェイグに差し出した。

 「桃の匂いがする・・・・・・?」

 ヴェイグはアニーから渡されたふんわりと甘い香り漂うタオルにクン、と鼻を利かせた。

 そうヴェイグに感想を述べられると「あっ!」と声を上げて「ごめんなさい!」とアニーは切に謝った。

 「ごめんなさい、そのタオルさっきまで私が使っていたのです!

すみません、汚いですよねっ?桃の香りは多分、石けんの香料だと思います!今!新しいのをっ」

 あわあわ、と忙しなく動いているアニーにクッとヴェイグが笑うとアニーはカァ、と頬を赤く染めた。

 「気にするな。これでいい」

 「気にするなって・・・・・・・・・ヴェイグさんは良いんですか?」

 「俺は構わない」

 フッ、と笑うヴェイグを見てアニーは思う。反則だと。

 取り返して新しいタオルを渡そうとしていた手は、行き場を失いダラリと下げて落ち着かせた。

 

 「お風呂から上がったばかりなんですか?でも、どうしてマオを?」

 風呂上りのヴェイグの体を冷やしたらいけないと判断し、アニーはヴェイグを部屋に招き入れた。

 ヴェイグはベッドに腰を掛けて、アニーは近くまで椅子を持ってきて向かい合うようにして座った。

 「髪を結わいてもらおうと思ったんだが・・・・・・・」

 「髪を? あ、あの!私が結わいたら、ダメ・・・・ですか?」

 「・・・・・・・・いや、頼む」

 ヴェイグからそう頼まれると、アニーは自分が使っているブラシなどを持ち出し、今まで座っていた椅子にヴェイグを座らせて背後に回った。

 「ちゃんと乾かさないと、癖がついちゃいますから。失礼します」

 ほとんど乾いていたヴェイグの頭を、仕上げ程度にタオルで拭った。

 そして乱れた髪を手である程度戻したあとに、ブラシを髪に通した。

 乱れても引っ掛からないのは、正直羨ましくもある。

 「いつも、ご自分ではやらないんですか?」

 アニーはヴェイグの髪を梳きながら、問いを掛けた。

 「いつも髪を結わいてくれているのは、マオなんだ」

 「マオが?」

 少し驚いたように声を弾ませて、アニーはブラシを置いて長いヴェイグの髪を3つに分けた。

 「ああ、ユージーンの頭もアイツがやっているらしい。手馴れたものだ」

 「あの人の頭も・・・・・・・・ああ、だから」

 アニーの中で何かが結びついたのか、「ふぅん」と納得した。

 「マオに結わいてもらっていたからヴェイグさんもあの人も三つ編みなんですね」

 「いや、違う。ユージーンはもっと前からあの頭だ。俺も、クレアに結わいてもらってから続けている」

 「クレアさんに?」

 「クレアが伸びた髪を遊びで結んだのがきっかけだ」

 「そう、だったんですか・・・・・・」

 

 

 彼の口からその人の名前が出るたびに、チクリと胸が痛む。

 クレアを取り戻す旅。

 そこには必ずクレアと会うことになる・・・・・・それは逃れられない。

 ヴェイグの過去を知るクレア。クレアの事ばかり考えるヴェイグ。

 会いたいと思う反面、複雑な気持ちもある。

 ヴェイグがクレアと再会すれば、きっと喜んでいる。

 でも、一体どんな顔をしてその人に会えばいいんだろう?

 嫉妬心。不安。入り混じる。

 「・・・・・・・・・」

 「アニー?」

 「ヴェイグさんは、クレアさんの事好きなんですか?」

 「・・・・・・・・・わからない。でも、特別な存在だ」

 「わからないってなんなんですか?・・・・・・・もっと、もっとハッキリ――――ぁ!ご、ごめんなさい。私ったら・・」

 ヴェイグの髪の束を交差させて仕上げに紐で括りながら、アニーは唇を噛んだ。

 本当はハッキリした言葉が聞きたい。けれど、それを口にされてしまえばこの想いは行くところがなくなってしまう。

 怖くて、口を閉じた。

 目の奥がじわり、と熱くなる。

 「さっきからアニーは謝ってばかりだ」

 「ごっ、ごめんなさい・・・・・・ぁ!」

 ヴェイグはふぅ、と呆れた感じに溜め息を吐いた。

 

 「できました・・・」

 「ああ。さすがだな、マオより上手い。―――――アニー、顔が赤いぞ?」

 「な、何でもありませんっ」

 鏡越しにヴェイグはアニーを見、顔が異常に赤くなっているのを見つけると振り返り、アニーは慌てて顔を逸らす。

 「熱があるのかもしれない」

 逃げるアニーの手を掴んで引き止め、額に手を宛てた。

 「熱なんてありません・・・・・・」

 握られた手と額に置かれた手が異様に熱く感じられた。

 ヴェイグを近くに感じられて、さらに顔が火照ってしまいそうだった。

 「・・・・・・・・アニー、今度からお前に頼んで良いか?」

 「えっ?」

 「やっぱり、マオよりお前にやってもらいたい・・・・・・頭を」

 「あ・・・・・・・・・、はい!私でよければ」

 「ありがとう」

 ヴェイグは笑みを浮かべて、いまだ赤い顔をしているアニーの頭を軽く撫でた。

 それは、アニーの不安を少し和らげてくれる行為だったかもしれない。

 

 

――あとがき――

なんだか、良く解らないもの。

でも、できるだけアニーがクレアに対して嫉妬みたいな感じを入れ込んでみました。

ヴェイアニはそこが障害かと。

 

あと、ヴェイグがちまちまと自分で三つ編みを編んでいるとは思えなかったんで、

クレア→クレア母→マオ→アニーにやってもらっていたんだろうと思ってみた。

ホントはクレアが冗談でヴェイグの頭で遊んで三つ編みにして、「カワイー」とか言われて気に入らなかったけど、

クレアを氷漬けにして以来、名残り惜しくてクレア母にやってもらっているうちにチャームポイントに!

・・・・ってのはダメですか。

 

2005.02.17.

 

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